抜錨
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 本稿は「またロケットを見にゆく(上):煙が見えるぞ」のつづきで、シリーズ「ロケットを見にゆく」の4本目である。

 2018年、サークル仲間とともに種子島へロケットの打上げを見にきたものの、延期が重なり断念。翌年、リベンジに来たところ、ロケット本体は見えたものの発射台で火事がおき、またもや断念することになった。

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世界一美しいロケット発射場

 昼までたっぷり睡眠をとったあと、とりあえず宇宙センターへ遊びに行った。珊瑚由来のまぶしい砂浜、快晴の蒼い空、気持ちいい波の音が出迎えてくれる。絵に描いたような、THE 南国だ。

 いつだったかテレビで、種子島宇宙センターは“世界一美しいロケット発射場”と紹介されていたことを思い出した。美しいなんていうのは曖昧で主観的な感覚だ。それで世界一を決めても意味がないと一笑したけれど、快晴の日に来てみると「なるほど。ココを超える発射場はまあないだろうなぁ」という気になってくる。

 海を隔てた岬には、今朝とおなじように、飛ばなかったH-IIBロケットが鎮座していた。波が引くわずかな隙きに、岩穴からカメラをかまえる。

抜錨

 大航海時代には鉄砲伝来で帆船が浮かんでいた大海原をまえに、今はロケットが抜錨する。緑がかった海のブルーと、白い波しぶきと、ロケットのオレンジが本当によく似合う。納得の一枚。けれどこれは打ち上がっていたら撮れなかったわけで、喜んでもいいのか……?

ロケットに接近

 「“せっかく”ロケットが上がらなかったから、できるかぎり間近で見てみよう」という話になった。昨夜の火事のこともあったし、どこまで近づけるかは未知数だけれど、車を射場の方向へ向ける。止められたら引き返せばよいのだ。止められなかったらどうしよう……(笑)。

 ロケットの丘展望所から見ると、バックに広がる太平洋も相まって画になる。ここではまだ望遠レンズが必要だった。

 「こんな近づいていいの?」と思いつつ、さらに車を走らせる。昨年の打上延期のとき、ボクは東京に戻ったが、残留組には目星をつけた場所があったらしい。

 なんと目の前だ。遠目に見てきたロケットが、数百メートルのところにある。

 ディテールもはっきりわかった。フェアリング(一番上の衛星を守る白いカバー)に付いている小さな出張りは、衛星が入りきらないからあとで設計に付け足したと、昔誰かに聞いたような……。こんな近くでじっくり観察できるのなら、もう少し勉強してくればよかったと少し後悔した。

 あんまり近いので広角レンズに変えて、みんなで並んでロケットと記念写真も撮れてしまう。ああでもないこうでもないとやっているうちに、全員バラバラのポーズをしたり、タイミングずれのジャンプ写真を量産した。

 夕暮れ時になると、機体はゆっくり組立棟に帰っていった。片面が夕空に照らされたロケットも、なかなか趣があって美しい。今回も上がらなかったが、機体を見られただけでも不思議と満足していた。着実に最終ゴール「打上見学」へ近づいている(笑)。

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ワカメさんとの会食

 「会食の約束がある」というセリフには驚いた。島にYと親しい人がいるとは知らなかったし、Yがそうした企画をするのは珍しい気がする。

 聞けば相手は、ツイッターのロケット界隈でよく見かけるワカメさん(仮名)だという。何度かお会いしたこともあったが、しっかり話したことはない。なかなか宇宙開発の話ができる友人(先輩)をつくるチャンスはないし、おもしろそうじゃないか。Yとのロケット談義に、すこしばかり挟ませてもらえたらラッキーだろう。

 ところが蓋を開けてみると、Yとワカメさんは初対面で、ツイッターでしか話したことがなかった。Yもボクと変わらない。ネットで知り合った人と実際に会ってはいけませんって、小学校で習わなかったのだろうか(笑)。ともかくYの行動力に舌を巻き、ロケット見物を終えた夜、ワカメさんと顔を合わせた。この記事はワカメさんもご覧になるだろうが、話して思ったことを率直に書き連ねてみる。

 ワカメさんは生い立ちを聞かせてくれたのだが、これがなかなか考えさせられた。自分とはずいぶんちがう。

 ワカメさんは大変苦労してきた人物だ。高校からロケットをつづけ、地元を出て学生ロケットをやりながら大学で苦心し、今は種子島でロケットに関わっている。

 ボクがまったく苦労していないとはいわないが、ワカメさんの苦労話をきくと、正直自分の境遇は、大変運がよいのかもしれないと考えてしまった。自分ではそんなつもりはなかったのだが、進路に困り果てるような経験は数えるほどしかなかった。なんだかんだでいわゆる進学校に通い、学歴に困らない程度の大学に進み、気のいい友人たちと仲良くやっている。しかしこれはまったくの偶然が連続した結果で、無論、ワカメさんのように苦労をする可能性も十分ありえた。

 ワカメさんは「もし自分が君と同じ大学だったら、ロックーン計画に参加していたにちがいない」と羨ましがった。ロックーン計画というのは、ボクがサークルではじめたとある活動のことだ。表向きの広報とちがって初歩的失敗ばかりだったし(この失敗談を集めていずれ記事でも書こうかな)、ボクは他のサークルを羨ましがる傾向にあったので、自分たちが羨ましがられるのは意外だった。

 実際はワカメさんの考えるようなたいそうなものではなく、相当美化されていると思う。ワカメさんは「大学がよいからそうした活動ができる」というニュアンスの話をされた。ボクは自分の大学しか知らないので、それが的を射ているかどうかは分からずとも、仲間に恵まれたのは確かである。ともあれそういう話をされると、ボクも「苦労の多い人生を歩んでいたらどうしただろう? ワカメさんのように粘り強かっただろうか?」と、想像させられたのだ。

 しかしおもしろい。おなじ宇宙開発という方向を向き、こうして仲良くさせてもらっている(こっちはまだ学生だが)。共通する趣味や目標をまえにすると、これまでの人生や生き方のちがいに関わらず話が合う。最近の宇宙開発界隈の時事トークや、仕事の話を興味深く聞かせてもらったし、尊敬すべき内容やおもしろい話が多々あった。

 別れ際に印象的なことがあった。ワカメさんは「学生のうちにやりたいことをやったほうがいい」と、ボクらにひとつ忠告をした。よく社会人から言われるセリフなので、「シルクロードをアジアから逆に辿ってみたいんですよ」と軽く返した。これ自体は本心なのだが、たいていの人には笑われる。「ひとりで行ってこい、見たいからYouTubeで実況してくれ」と(笑)。

 今回もデカい話だなぁと笑われるつもりだったのだが、予想外にワカメさんは「ああ行ったほうがいい」と大真面目で返した。社会人になったらできないとか、学生のうちにやっておけ、という話はともかくとして、“やりたいことを、できるときに、やりたいだけやる”精神は大事かもしれない。ワカメさんの態度はそれを体現しているように思えた。

 そんなわけで、今年も残念ながらロケット打上見物はならず、H-IIBロケットはとうとう退役してしまったのでした。けれど宇宙へ飛ぶ本物のボディーをじっくり観察したし、けっこう遊んだのだ。

 人生においておそらく最初で最後のタピオカミルクティーを、男二人で飲んだ。東京では女子力が低すぎるため決してできない所業。ボクは「タピオカミルクティー タピオカ抜き」が好みだとわかった。あとカルボナーラにレモンを絞った料理があったが、あれは美味い。

 鉄砲館は鉄砲のみならず、先史時代からの島の歴史展示が充実していた。これまで訪れた博物館のなかでも満足度上位。火縄銃ってけっこう重いんだなぁ。

 ビーチでドローンも飛ばしたし、『秒速5センチメートル』の限定パスケースもゲットした。

 そういえばまだカヤックはやっていない。星を撮る素晴らしいポイントを見つけたのに撮っていない。まだまだ種子島を遊び尽くせていない。たぶんまた「ロケットを見に行く」を口実に島へ出かけるんだろう。

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