星空とミラー

最近、星景写真を画像処理するのに「Sequator」というフリーソフトを使っている。ボクのような怠惰な人間にも便利で楽で使いやすいソフトだ。

昨年12月に母校地学部の合宿に参加したとき、このソフトの使い方を聞かれ「ブログにまとめておく」と口を滑らせたまま、早3ヶ月が過ぎたので、そろそろまとめておく。

一応、天体写真を撮りはじめたばかりの方でも分かるような説明をしたつもりだが、追記してほしいことや質問などあれば、お問い合わせフォームやtwitterのDMに連絡いただければと思う。

Sequatorの仕組み

ひとまずSequatorで何ができるのかを知らないと、使ってみようという気が起こらないと思うから、簡単にまとめてみる。ここでは詳しく書いているが、ご存知の方はすっ飛ばしてもらってかまわない。

Sequatorは主に星景写真(星空と景色のツーショット)の画像合成に使う。合成というとたいそうに聞こえるので、よく友人には「合成した」と言いふらしているのだが、実のところボタンをポチるだけである。自慢するにはコスパが良いではないか。

さて、何のために合成するのかというと、それは天体写真の大敵、ノイズを減らすためだ。

天体写真では暗い夜空を撮るため、露光時間は長いしISO感度も高くしないといけない。そうすると空に実際には存在しない光の点、ノイズがたくさん現れる。

このノイズ、同じ条件で撮影するといつも同じ場所に出る奴もいるが、ほとんどは毎回ランダムに出てくるので厄介だ。

そこで同じ構図で撮影した写真を複数組み合わせてみると、すべての写真で同じ場所にある光の点は実在する星、一枚だけにあって他の写真にない点はノイズ、という具合に星とノイズを判別できる。

この合成方法(比較明合成という)ならば明るい星はよりいっそう明るくなるし、暗い星は暗いと分かるし、ノイズは消えて空が眼で見ているように滑らかになる。肉眼で見たような星空を写真で再現できる!

ところで肉眼といえば、だいぶ昔だが、ワケあって毎晩星空を肉眼で眺め、記録したのち機械で測るという観測をしていたことがあった。この観測に名前を付けることになったのだが、「肉眼観測」を主張したボクに対し、友人たちが「肉っぽい」「肉肉しい」「肉球っぽい」と真っ向から反論、「裸眼観測」になってしまった。以来、「肉眼」の文字を見ると「肉球」を思い出す。

Sequatorのすごいところ

で、ここまでなら別に今までのソフトウェアでもできたこと。Sequatorがすごいのはここからだ。

赤道儀いらず

まず、Sequatorで処理する天体写真には赤道儀がいらない。日周運動で動いてしまう星の位置を、自動的に合わせて合成してくれる。最強。

地上の風景も半自動で合成

しかし星の位置を合わせると、地上の風景がブレてしまう。現に今までの星景写真は地上がブレていることも多かったし、星と風景、両方のブレを減らすために、追尾速度1/2という赤道儀も登場したほどだった。

そこでSequatorには、なんと地上だけ星空とは別で合成してくれる機能がある。しかもほぼ自動。完成されたソフトウェアといった様子だ。

恐るべきスピード

地上の合成まではしてくれないが、星の位置を自動で合わせてくれる天体写真画像処理ソフトに「Deep Sky Stacker」というものがある。星野写真(星空だけの写真)に特化したソフトだ。こちらは数十枚の処理に、数十分~数時間かかる。今までの天体写真用ソフトのほとんどは、だいたいこんなものだろう。

ところがSequatorの処理速度は目を見張るものだった。処理をはじめて最初だけ様子を見て、「終わるまで昼食にしよう」と席を立つ予定が、わずか数分で終了して食べさせてくれない。恐るべきスピードだ。

Sequatorの使い方

撮影と用意する写真

まずは撮影する写真の準備だ。今回は以下の写真を使う。

ISO3200 f/4.0 30sec

これと同じ構図で、固定して撮影した写真16枚を合成する(何枚でもOK)。もちろん、赤道儀は使わずに三脚に載せて撮っている。少しざらつきがあるが、あとで処理してノイズを減らすことを考えれば大したことはないだろう。

さらに、レンズにキャップをした画像(ダークフレームという)を4枚用意した。一見真っ暗に見えるが、わずかに出るノイズを星空の写真から差し引くことができる。撮影条件は星の写真と同じにし、温度でノイズ量が変わるので、なるべく星の写真を撮ってすぐに撮影したほうがいい。

ちなみに、カメラの設定で「長時間露光ノイズ除去」がONになっている場合は必要ない。自動的に同じことをやってくれている。ただ、1枚の星景写真撮影に露出時間の2倍かかってしまい、時間がもったいないのでOFFにすることをオススメする。

これで準備終了。簡単ではないか。

Sequatorに画像を取り込む

では、実際にSequatorの使い方。

外部サイト:Sequatorのダウンロード

上のリンクからSequatorをインストールして起動すると、こんな画面が開く。左上で画像の選択、左下で画像処理の設定、右側にプレビューが表示される

まずは「Base image」をダブルクリックして、地上、星の位置合わせの基準にする写真1枚を選択する。

つづいて、同じ要領で「Star images」をダブルクリックして、残りの星の写真全部を選択する。

最後に「Noise images」。キャップをつけて撮った真っ暗な写真を選択。

「Vignetting images」は天体写真の画像処理ではフラットフレームと呼ばれるもので、周辺減光やレンズのゴミを取り除くためのものだが、今回は割愛する。

出力先を設定する。「Output」を開いて、自分の好きな場所に好きなファイル名を指定して「保存」。

これで画像指定は完了だ。

処理の設定

次に画像処理の設定をしていく。ざっと説明するとこんな感じ。ON・OFFの選択はダブルクリックすることで切り替えられる。

【Composition】合成の詳細設定

Align stars:星の位置を自動で合わせてくれる。
Trails:ただ重ねるだけで、星の動きが線状になる。

【Computing Options】でさらに詳細な設定ができる。
Accumulation:普通の加算平均(もとの画像を足して平均)と思われる。
Select best pixels:外れ値を消して加算平均できる。
Freeze ground:地上を固定してくれる。「Selective」にチェックを入れると、飛行機などを消せる。
Align only:あとで別のソフトで処理するときにオススメ。「Linear」にチェックを入れておきたい。

適宜、出力したい画像に合わせて選択する。今回は星景写真なので「Align stars」「Freeze ground」の組合せを使った。

【Sky region】星空の領域指定

星空の領域を指定する。一番使いやすいのは「Irregular mask」。自分で星空を塗りつぶすと、ソフトがおおよその領域を自動で検知してくれる。ズームの操作で円の大きさを変えられる。「Auxiliary highlight」にチェックを入れると、境界が分かりやすい。

【Auto brightness】自動明るさ調整

あとで他のソフトで処理するほうがうまくできるので、OFF。

【High dynamic range】HDR合成

明るい部分を暗く、暗い部分を明るくして、平均的な明るさにしてくれる合成方法。今回はOFF。

【Remove dynamic noise】ホットピクセルノイズ除去

Noise imagesなしでもノイズをなるべく減らしてくれる。一応ONにしておく。

【Reduce distor. effect】歪み補正

レンズなどによる歪みを補正してくれる。ボクはカメラ側で補正することが多いのでOFFにしている。星が楕円形に伸びてしまうのが気になる方は、利用してみてもいいかもしれない。

【Reduce light pollution】光害除去

ありがたい機能だが不自然になりがちなので、OFFにして出力後、他のソフトで直すべきだと思う。

【Enhance star light】星の光の強調

お好みで。ボクはいつもOFFにしている。

【Merge pixels】?

画像を1/4に縮小する代わり、少しきめ細やかになる? OFF。

【Color space】カラーマネジメント

普通はsRGBでOK。

合成処理

ここまで終わったら、一番下にある「Start」ボタンを押して、画像処理スタート! 数分後、指定したフォルダに完成した写真が現れるはずだ。

できあがった写真がコレ。

ちょっと暗いが、しっかり合成してくれている。最初の写真と見比べると、相当空が滑らかになっているのが分かる(Googleフォトの圧縮機能で、ここでは分かりづらいかも)。

さて、本来ならここで終了だ。あとは他のソフトを使って、明るさや彩度などをお好みで変えてやればいい。

ところが残念なことに、今回はミラーに反射していた星が消えてしまった。星空の領域指定でミラーを外したからだ。かといってミラーの中も塗りつぶしても、ミラーの中の星は外側の星とは異なる動きをするのでうまくいかない。

そこで一計を案じた。ミラーの中だけを星空の領域に指定して、別でもう一枚合成した。結果はコレ(↓)。

見事に星空は消えているが、ミラーの中の星は健在だ。こうしてできた〈星空版〉と〈ミラー版〉の2枚の写真を、画像編集ソフト「Gimp」で比較明合成。普通の物理法則が成り立つ世界へようこそ。

このあとはRaw画像現像ソフト「Darktable」で、トーンカーブなどをちょっといじってみた。

関連記事:【RAW現像フリーソフト】darktableがRawTherapeeより使いやすいかも?

最終的に完成した写真がこちら。

きっとまた旅に出る

良さげではないか。

まとめ

Sequator、一度コツをつかむとあらゆる星景写真を楽に処理できるようになる。なるべく手軽に手短に、楽をして画像処理したい方にはもってこいのフリーソフトだ。

最初のハードルもあまり高くないので、初めて天体写真の画像処理に挑戦する方にもオススメである。