コロナ禍ですっかり忘れていた。
期間限定で横浜に動く実物大ガンダムが置かれている。見に行った友人のYが「けっこう良かったよ」と勧めてきて思い出したので、山下埠頭の「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」を訪れた。
あまり期待していなかったのだが、動くガンダムは伊達じゃなかった。
トップ画像:ひざまずくガンダム。人がいないとサイズが分かりづらい。勤労感謝の日だというのに、なぜガラガラだったんだろうか……。
こいつ、動くぞ
見えてきたガンダムは意外にも小さかった。
全高18m。25mプールの約2/3と思えば大したことはない。眼前で巨大ロボットを仰ぎ見る想像をしていたが行き過ぎだった。そういえば初めてお台場のユニコーン・ガンダム立像を見たときも、おなじ感触を持ったのだっけ。
しかし動きだしてみると予想以上に存在感がある。立像はあくまでオブジェだが、動けばオブジェというよりは巨人に近い。向こうから迫ってくると急にデカくなった気がする。迫力がちがう。
足のシリンダーや各種モーターの動きがチラ見えすると、産業機械というか、工業製品、実戦兵器としてのモビルスーツを感じられる。大型機械の見学であったり、空港で飛行機を眺めているときのように興奮した。
イメージしやすいように例をあげれば、映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』のシーンだろうか。マン・ハンターが街なかをモビルスーツで闊歩するシーンや、公園でモビルスーツの戦闘する様子を思い起こさせる。「これが実際に使われるようになったら大事だな」と思わざるを得ない。
時間よ、とまれ
Yの話では、夜にライトアップされたガンダムもカッコいいが、昼の明るいうちに構造を見ておいたほうがよいという。せっかくなので昼間は構造、夕方は刻々と変わる空の色や光の照らされ方、夜は闇に光るガンダムを見ることにした。日の入り前後の3時間シャッターを切りつづける。
ちなみに見どころはこの動くガンダムくらいしかないのだが、施設内には随所にガンダムネタが散りばめられている。お手洗いは連邦のカラーだし、自販機で各話のイラストが描かれた缶コーヒーを買うと、「アムロ、飲みまーす!」とセリフが流れる。ボクは二本買ったがカフェインが駄目なので、翌日研究室で後輩に飲ませ缶だけ回収した(笑)。
見せてもらおうか、モビルスーツの性能とやらを
カッコいいのだが細かいところで気になる部分もある。
まず動きがゆっくりしている。一歩進むのに10秒くらいかかるだろうか。あまりにゆっくりすぎて敵の的にちょうどよく(笑)、とても実用的でない。もっと速く動いてほしい。とはいえ重量のかかる各関節や腰の板など、すべてをプログラム制御のモーターで動かしていることを考えると難易度が高そうである。
そしてこのガンダムは実際に歩いているのではなく、背後の支柱に支えられ浮いている。直立二足歩行どころか立ってもいない。前後の動きには台車を使って、見かけ上歩いているように見せているだけだ。
支柱には多数のケーブルがあり、モーターを動かすための大容量の電力を送電しているらしい。劇中では核融合炉でエネルギーを賄っていたが、小型のものはおろか大型のものも実用化は先である。
つまりこの動く実物大ガンダムは、あくまでもアトラクションであることが如実に表れている。スペースコロニーもない21世紀の技術で、宇宙世紀のモノを再現しようというのだから無理もない。
このあたりは二足歩行ロボットの歴史なども踏まえ、本物のモビルスーツを実現するうえで今回のガンダムがどの立ち位置にいるのか、説明の展示があった。いくつものボツ案、実際に採用した材料、機構の仕組みや工夫など、特に工学系の人には楽しめる内容だと思う。世界初の本格的人間形知能ロボット「WABOT-1」を見られたり、大学のロボットの講義の復習に近く、そこに大好きなガンダムが絡みなかなかおもしろかった。
「なんだ、本当に歩くわけじゃないのか」という声も聞こえてきそうだけれど、いまの科学技術の限界を知る企画としてはもってこいだろう。
お台場に実物大ガンダム立像が現れ、約10年で動くようになった。これからの10年で、今度は直立二足歩行できていたりするのだろうか? いつもガンダムなので、次はシャア専用ザクあたりを期待しておこう。