大抵の日本列島に住む人は、震度7がかなり大きな揺れだと知っていると思う。けれどもその体感を知る人はあまりいないかもしれない。どうしても想像の域を出ない。
起震車に乗って震度7を体験する機会があった。想像とはだいぶちがった。自分の備忘録、そして体験したことがない方への警鐘として、ここにその体感を記しておく。
トップ画像:2012年に訪れた根尾谷断層の隆起。1891年の濃尾地震で生まれた。上を歩く人と比べると、上下の変位の大きさがよくわかる。
震災への備え、大切さはわかっているが――
地学部にいたので、様々な場所で地震の爪痕を見てきた。三陸では津波が到達した高台に登って息を呑み、根尾谷では道路を横断する巨大断層を観察した。4つもプレートが重なる日本列島では、いつ大きな地震にあってもおかしくない。と、思ってはいる。
しかしボクが経験した最大震度は4。東日本大震災のときは中国にいて、帰国後も大きな地震に見舞われたことはない。ボクは地震の恐ろしさをまだ知らないのである。いくら震災への備えが大事だと思っていても、語り部から地震の話を聞いても、知った気になっているだけかもしれない。本当は何も分かっていないのかもしれない。
震災のまえにその恐ろしさを体感してから備えたい。そう思っていた折、大学の防災訓練で地震の揺れを再現できる起震車がやってきた。
震度7の揺れの体感
車は中型のトラックだった。地面に足を伸ばし車体が動かないようになっている。揺れを体験するのは箱型の荷台のなかで、震度4から徐々に揺れを増し、震度7に到達する。固定された机が置かれており、体験者はその下で正座して前かがみになり、机の足を掴む。なんともマヌケな姿勢である。しかし体験者は大騒ぎしながら、みな必死で机にしがみついていた。
揺れはじめる。
- 震度4
揺れているなと感じる。この程度なら物が倒れたりはしないだろう。身構えていないと驚くかもしれないが、地面がわずかに動いているだけだ。下手をすると揺れに気付かないかもしれない。 - 震度5弱
まだ大丈夫そうだ。5になってもまあ、こんなものか。 - 震度5強
このあたりから急に「来たぞ」という感触になってくる。しっかり体を固定しようと腕に力を入れ、さらに前かがみになった。しかし物ははっきり見えているし、ちゃんと体勢も維持できる。歩くのは厳しいかもしれない。 - 震度6弱
沖合いを進む高速船の揺れを、小刻みにしたような感覚が襲った。頭が振れる。ブレるというほどではないが、視野は常に揺れている。これは本格的にヤバいと思いはじめる。けれどもまだ理性はあった。 - 震度6強
頭のみならず、体が上下左右に揺れてしまう。というよりも、振りまわされる。なんとか身体を安定させようと姿勢を低くするが、当初の体勢を保つのは不可能だ。たとえ生き物であろうと、この状況下では単なる弾性体でしかない。視野も頻繁にブレる。擬音語にするとガガガガという感じで、必死である。 - 震度7
十分恐ろしい震度6弱の揺れ幅がさらに大きく、そして小刻みになった。もはやわけがわからない。この状況で冷静さを保てる人はまずいないだろう。もっとも、冷静になってもできることはほぼ何もない。
揺れが収まりほっとしたのも束の間、体験では二度目の震度7がやってくる。ほんの30秒ほどがやけに長く感じる。
怖い……! 模擬体験なのであらかじめ身構えているうえに、今回は机が固定されていた。本当の地震ではそうはいかない。突然の振動に体は振りまわされ、体勢を安定させようにも机は動きまわるだろう。実際に揺れが来たら間違いなくパニックになる。
どっと疲れを覚え、机の下から出て問題が発覚した。頭がクラクラしうまく立てず、船酔いのような気持ち悪さが残っている。両手で手すりを掴み、ふらつきながら荷台を下りた。ちょうど映画館で映画を観終え、客席の階段を下りる感覚に似ている。
事前に揺れを体験すれば混乱しないとは言えない。しかし揺れが来たときの想像はより正確になったにちがいなく、すこしは理性的な行動ができるかもしれない。百聞は一験に如かず。